融合の魔術 日本式アレンジ

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私が大学院で勉強をしていたときの話しです。国際関係論で業績をあげられた先生がいらっしゃいました。その先生は、外国人留学生に対して、日本文化とは何かということを説明するするとき、講義にかならず「あんぱん」を持ってきていました。もちろん、講義の最中に食べるのではありません。

あんぱんを掲げて、日本文化とはこれです!と言って説明し始めるのです。あんぱんの外側は「パン」という西洋のもの、中身は「あんこ」という日本のもの、このようにうまく融合させたものが、日本文化の本質であり、日本文化とは何かへの回答です、というのです。大体このような説明でした。

この先生はいつも「What is ・・・?」と言って文化の本質を問うことを学生に教えていました。その背景には、ルース・ベネディクトの『菊と刀』の人類学的理論がありました。

その先生は、常に、その文化、地域の本質とは何かを問うことを学生に求めていました。そしてそれは、フィールドワークから来たもので、その先生は、フィールドワークを基本とする京都学派の先生からも畏敬の念をもってみられていました。私は、その先生のおかげで、その先生の編著書の一部を書かせてもらうことができました。今となっては懐かしい、ありがたい思い出です。

考えてみると、確かに私がブログで書いてきたものの中にも似たようなものがあったかと思います。お味噌汁を基本とした中華麺を入れたラーメン。カレーや餃子は、明確に日本と外国の要素が分かれているわけではありませんが、ジャパナイゼーションを遂げています。日本は、外国の要素を取り入れて融合させるのが非常に得意な民族であり、折衷の妙をその本質に持つ文化といえると思います。ここでは食文化における融合について考えてみたいと思います。

その融合の方法は、いくつかパターンがあると思います。

ひとつは、外来の食べ物を日本化するもの。それは、先に挙げたラーメン、カレーライスなどがそうでしょう。そのもの自体は本国では別物で、日本に来るとアレンジされ別物になる。例えば、ラーメンは、スープを美味しく工夫するものとなり、カレーはインドのようなカレーを基本とするのではなく、あらかじめブレンドされたカレー粉を使ったイギリス式の洋風カレーを発展させています。

後は、調理方法と食材を和食に取り入れるやり方です。フランス料理や中華料理の方法論を用いたり、食材を取り入れて独特な和食を作るというやり方です。この逆で、日本人シェフによる和食的要素を取り入れたフレンチ、あるいは中華といったアプローチもあるかと思います。

ある意味、ノブの松久さんの料理も絶妙な融合を遂げた料理といえるように思います。また、このニューウェーブというか、ハイブリットが世界に影響を与えて感動を呼びます。松久さんの場合、ラテンの料理と和食の融合といった点があります。

これは日本文化論のようになってしまいますが、枝分かれしていった西洋文化と全く反対の、流れ込む文化、融合する文化を古来持ってきたからではないかと思います。また、日本人が大昔からそうしたメンタリティと特質をもっていて、いつも時代も外来文化を応用し、その上に日本独自のものを作り上げることに成功してきました。

この和食における融合の図式は、食の分野だけにとどまりません。日本文化を貫く基本原理というものと言ってもよいくらいです。日本人は、応用には強いが発明的なことは弱いといわれますが、決してそのような紋切り型な断言でとどまらないと思います。このあたりは、食文化を超えた文化論になる思いますので、また別の機会に論じてみたいと思います。

以前、中華料理の本質について語りましたが、今回は日本料理の本質について、ほんの一部ですが触れてみました。たかが食ですが、されど食、いや食文化は、その国、文化、文明の本質にかかわる問題と思います。

このコラムでは、その他の食文化の本質にも迫ってきたいと思います。もちろん、思想的な面からもですが、やはり胃袋からでしょう。

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