創造的な料理の力

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創造性あふれたニューヨークのレストラン

筆者は、以前ニューヨークに駐在したことがあります。ニューヨークは、それは楽しい街で、みんな明るく、活気のあるビジネスとワクワクするエンターテイメントに溢れた街でした。世界的な都市であるため、当然世界中のグルメが集まってきます。

ひとつひとつ挙げたらきりがないくらいです。ニューヨークの有名レストランの中でも、特に有名なもののうちのひとつに「ノブ」があります。ロバートデニーロと共同経営を行なっている松久さんは、初めは日系レストランの先駆であるロッキー青木の寿司屋に弟子入りし、その後、ペルー、アルゼンチン、米国アラスカと渡り歩き、ロサンゼルスで頭角を現したころ、ロバート・デ・ニーロに誘われて、ノブを共同経営することになります。

その後はご存知のかたもいらっしゃるかと思いますが、ニューヨーク、ロンドン、東京などノブを世界展開させていきます。そのスタイルは、新しい和食でラテン系の料理などと絶妙な融合を遂げています。

駐在時代、毎月1回ほど、一緒に働いている従業員数名とランチかディナーに行っていました。あるとき偶然ノブを選び、ランチに行きました。

今はどうか知りませんが、ノブは夜ふらりと行ってもほぼ入れません。その代わりにノブネクストドアというとなりの店を紹介されます。もちろんそこも激込み。電話で予約しても予約は取れなかったです。ところがランチでふらりと行くと、「残念ですがお席はありません」と最初言われます。しかし、そのあと「少しまってください」といって従業員がどこかに消えると、すぐ戻ってきて「こちらへどうぞ」と案内してくれることがありました。

従業員引き連れていったときも、そんな調子で席を確保できました。それで、味をしめ、以後同じ手を使うようになりました。

ある意味優雅ですよね。ランチにノブへ行くと、大体費用はいつも私もちでした。それくらいは、当たり前と思っていました。

少し話がそれました。

従業員といった時、料理の名前は忘れましたが、ノブでは有名なホタテの料理が出されました。新鮮な生のホタテがオリーブオイルのうえに置かれ、赤いチリのようなものがトッピングされていました。デザートは、これもノブで有名なお重に入ったスイーツ。そのほかは何を食べたか忘れてしまいましたが、大変美味しかっただけでなく、見た目にも大変鮮やかだったことを思い出します。

「シェフになります」

しばらくのちになって、ランチに一緒に行った従業員の女性で、研究員として採用した女性が、話があるというので聞いたところ、会社を辞めたいと言われました。その理由を聞いてびっくりしました。ノブで食べた料理が素晴らしいものばかりでそれを食べてショックを受け、辞めてシェフになりたいの言うのです。

ノブの料理はここまですごいのか?と思うと同時に、創造的な料理の持つ力を見た思いがしました。松久さんが苦労して作り上げてきたものは、確実にひとを感動させるだけでなく、ひとの人生さえ変えてしまう、それだけの力を持つのだなと感動しました。

やめた彼女は、そのあとフレンチの料理学校に通い、見事シェフになります。最初は、ケータリングなどを担当していました。しかし、念願のシェフになり充実した毎日を送っていました。しかし、ひとの人生を変えてしまうほど料理の影響は大きい、と改めて思います。まさに、料理は職業としてツールでもあり、家庭の幸福の形でもあり、そして人間の様々な側面に影響を与える思想でもあるのではないか。そう思えてしまうくらいです。

その後も、創造的な料理の探索は続けました。たとえ従業員が辞めるようになったとしても、逆にそれだけの感性持った人を採用した自分に自信を持とうと、言い聞かせながらでしたが。

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