寿司屋で怒られた話

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隠れ家的な寿司屋

大分昔に、友人に連れられて阿佐ヶ谷にある寿司屋に行きました。その寿司屋ご主人は、都心の有名寿司店で修行して、暖簾分けしてもらったのだそうです。修行したお店は、政治家とかも出入りする寿司屋で、一流の人たちに揉まれたこともあり、ちょっと説教くさいところがありました。寿司屋すべてがそんなところばかりではないでしょうし、そのご主人が横柄だから悪いと言っているわけではありません。

ただ味は素晴らしく、今まで食べた中で最も美味しかったです。料理屋だと、揚げ物とかのにおいがしたり、壁面に油が付いていたりするものですが、その店はそのようなものは、まったく見受けられず、油などを使っていないのだなとわかりました。つまりはてんぷらなどのつまみはありません。

わさびは、天然のものを使い、鮫肌のおろしですりおろす。かなり徹底した寿司屋だったと記憶しています。学生上がりなので、その当時まで、寿司屋に行く回数は極端に少なかったので、そのような寿司屋に行ったことで、大人になった気分がしました。まだ独身だったので、回転寿司なども行ったことはなかったので、友達に誘われたというきっかけがなかったら外食に寿司を選ぶなどという選択肢はなかったと思います。

そういった意味で、友人につれて行ってもらった寿司屋は、本物を知るきっかけとしてはよかったと思います。

主人のポリシー

ご主人の修行時代の話をおこぼれで聞きながら、カウンターで食べていました。寿司屋では、ガリをすごく多く盛ってくれるんですね。知りませんでした。それだけ、味を楽しむために舌をニュートラルな状態にしておくということなのでしょう。

かっぱ巻きを出してもらった時です。友人と話していて、箸が止まっていたところ、「早く食べてくれ!」と言われました。怒られたわけです。まずは食べて、怒られた理由を聞いてみました。主人のいうには、「早く食べないと、海苔が湿ってパリパリ感がなくなってしまう」とのことでした。ついでに、きゅうりが千切りになっていたので、それも質問してみたところ、「これが一番はごたえがいい」言っていました。

素材は料理されて出された瞬間から味が劣化し始めるとも考えられます。そのためにも、慌てる必要はないのですが、なるべく早くいただく、ということも重要なのだと思います。

池波正太郎さんが、てんぷらは揚げて出されたらすぐに食べるのがコツというような内容のことを述べられていますが、正鵠を得た見解と思います。

主人としては、長年の修行の末に得た寿司の王道を展開するために店を構え、客にいいものを食べてもらい、そのために時には苦言を呈することもあるのでしょう。

ただ、そうした主人のような営みがあって、日本食文化が発展しているという点もあるとは思います。魯山人も久兵衛寿司で主人にアドバイスをネタの厚さについて指摘をしたところ、これがもっとも寿司ネタと合うんですと答えられたとのこと。感心した魯山人はその後たびたび久兵衛を訪れ、自分を焼いた陶器を惜しげもなく与えたそうです。味を極めようとするひとが魯山人的になるのは当然なのかもしれません。

もともと、江戸前の寿司は屋台から始まったようですが、歌舞伎などの帰り路に、ちょっとつまんで帰るというファーストフード的なスタイルだっと思います。江戸時代は、歌舞伎は朝7時くらいから夕方まで通し狂言で行っていたので、お弁当を食べることのできる幕から時間がたっており、お芝居が終わるころには小腹が減っていたのだと推測されます。

それから次第に発展していき、冷蔵技術、冷凍技術が発達していろいろな食材を新鮮な状態で食べることができるようになりました。それに、寿司職人の努力と工夫が加わって、現代の寿司という食文化ができたと思います。

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